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家族性高コレステロール血症(FH)とは?若くても動脈硬化が進む理由|【内分泌代謝専門医が解説】

[2025.06.18]

はじめに

健康診断で「LDL(悪玉)コレステロールが高い」と言われても、年齢が若く、体型も普通や痩せ型であったりすると、「まだ大丈夫」と考えることも多いと思います。

 

しかし、若くてもLDLコレステロールが180 mg/dL以上ある方には、遺伝性の脂質異常症、"家族性高コレステロール血症(FH)"である可能性があります。

 

本記事では、家族性高コレステロール血症の診断基準や、見逃されやすい理由、放置するとどうなるか、適切な治療について、内分泌代謝専門医がわかりやすく解説いたします。

 

目次

  1. 家族性高コレステロール血症とは?
  2. 若くても動脈硬化が進む理由
  3. 日本の診断基準
  4. 見逃されている理由とその背景
  5. FHと診断されたら:治療法と目標値
  6. 専門医からのメッセージ

 

1. 家族性高コレステロール血症(FH)とは?

家族性高コレステロール血症(FH/Familial Hypercholesterolemia)は、LDL受容体などの遺伝子変異によって、LDLが高く保たれる病気です。

 

発症頻度は約311~313人に1人(日本では40万人程度)とされており、若い時からLDLコレステロールが180~300 mg/dL以上という明らかな高値になる点が特徴です。

 

心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが通常より非常に高くなるため早期診断と早期治療が重要となります。

 

🧬 なぜ“遺伝”でコレステロールが高くなるの?

体の中では、肝臓がコレステロールを作ったり、余ったコレステロールを血液から回収したりしています。

 

この「作る・回収する」働きをしているのが、体内にある“たんぱく質”や“受容体(アンテナ)”です。

 

ところが、生まれつきこの機能が少し弱いタイプの人がいます。これが「コレステロールが高くなりやすい体質」の正体です。

 

たとえば、肝臓がLDLコレステロールをうまく回収できないとか、コレステロールをつくりすぎてしまうというような仕組みです。

 

こうした体質は、家族の中で似た傾向が出ることがあり、親や兄弟姉妹にもコレステロールが高い人が多いケースがよくあります。

 

👉 食生活や運動習慣ももちろん大切ですが、遺伝的に「上がりやすい」人がいるということがお伝えしたいポイントです。

 

2. 若くても動脈硬化が進む理由

生まれつきLDLコレステロールが高いため、10代や20代から血管に負担がかかる状態が続きます。その結果、30〜40代で心疾患を発症することも珍しくありません。そのため早めに見つけて早めに治療する必要があります。

 

3. 診断基準

日本動脈硬化学会の診断基準によると、FHは以下の3項目のうち2つ以上で疑われます。

 

  1. 未治療時LDL -C≥ 180 mg/dL
  2. アキレス腱の肥厚
  3. 近親者のFHまたは早発性冠動脈疾患の既往

 

4. 見逃されている理由とその背景

日本では家族性高コレステロール血症の診断率は1%未満と、低い水準です。見逃される大きな理由は、医療者側の理解不足や遺伝性疾患への認知不足と言われています。特に若年でコレステロールが高い方に対しては、FHを念頭に置いた診察が重要です。

 

5. FHと診断されたら

家族性高コレステロール血症(FH)と診断された方は、以下のような治療が必要です。

 

コレステロールの治療目標値について

一般的な脂質異常症では、LDLコレステロールの目標は「140未満」や「120未満」となることが多いです。

 

しかし、家族性高コレステロール血症の方では次のように非常に低い目標値が設定されています。

 

  • LDLコレステロール 100 mg/dL 未満(冠動脈疾患の既往なし)
  • LDLコレステロール 70 mg/dL 未満 (すでに冠動脈疾患の既往あり)

 

これは、家族性高コレステロール血症の方の血管がすでにコレステロールに長期間さらされ、動脈硬化が深く進んでいる可能性があるためです。通常よりも強力にLDLを下げ、血管へのダメージを最小限にする必要があるのです。

 

治療内容
項目 治療内容
食事療法 飽和脂肪酸・コレステロール制限
薬物療法 スタチン系の薬、必要に応じてエゼチミブ、PCSK9阻害薬
家族スクリーニング 親子や兄弟にもFHの可能性あるため推奨

早期診断と強力なLDL低下治療が命を救うことにつながります。

 

6. 専門医からのメッセージ

家族性高コレステロール血症は見た目や自覚症状ではわからず、若いうちからの高LDL-C血症が静かにじわじわと血管を傷つけていきます。

 

 家族性高コレステロール血症に限らず、脂質異常症の背景には「生活習慣」とともに「遺伝的な体質」が大きく影響していることが、近年の研究でわかってきています。

 

決して「体質だから仕方ない」と諦めるのではなく、その特性を知ったうえで、適切に対策をとることが将来の健康を守る第一歩です。

 

特に、若くしてLDLが180以上、家族歴がある方は、一度内科や内分泌内科に相談することをおすすめいたします。

 

著者紹介:

人形町 水天宮 内科クリニック 医師

玉寄 皓大(たまよせ あきひろ)

  • 日本内科学会認定 内科専門医
  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
  • 日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医

東大病院・聖路加国際病院で脂質異常症、糖尿病の専門診療に従事。現在は東京都中央区・日本橋で脂質異常症の早期発見・治療を通じて、将来の冠動脈疾患や脳卒中を防ぐ活動を行っています。

 

 

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